留学前は薬剤師として働いていました。外国人の患者さんが来られる度、もっと正確な英語が話せたら、もっと丁寧にアドバイスしてあげられるのにな〜ともどかしい気持ちでいっぱいでした。

そんな中、フランスに住む友人宅を訪れる機会があり、それがきっかけでヨーロッパ文化に興味を持ち始めました。ホテルではない普通の家庭にお邪魔することができたため、またヨーロッパに来る時は、今度は観光ではなく住んでみたいと思うようになりました。

そう考えるうち、せっかく留学するなら、英語の勉強だけではなく学位も取得したい!と目的が明確になっていったのです。

ここでは私が2年間のイギリス留学で体験したこと、得たことについて少しお話させていただきます。これから留学をしようとしている方、留学しようか迷っている方の参考になれば嬉しいです!

大学選び

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ヨーロッパで本場の英語を学ぶならイギリス以外には考えられませんでした。

まずイギリスで薬学部のある大学を検索し、立地、学費、コース内容、募集要項を比較しました。現地の学生に比べ、留学生の学費は高めの学校が多いと感じました。その中で、King’s  College London (KCL)で留学生を対象とした2年コース(1st year Graduate Diploma+ 2nd year Master of Science)を見つけました。

Graduate Diplomaは日本ではない学位ですが、海外ではMasterの準備期間のようなもので、part-timeならば働きながらでもゆっくりマスター取得の準備ができるというものです。

この2年間コースは他にはないユニークなもので、Graduate Diplomaで特定の成績を達成すれば、マスターに進むことができるというものでした。日本で一度社会に出ると学校で勉強するチャンスが得られにくいですが、働きながらでも勉強できる制度が整っているんだな〜と感心したものです。

また、KCLはイギリス名門校が集うラッセルグループの一つでもあります。薬学部のメインキャンパスはWaterloo stationから徒歩2〜3分という好立地で、KCLを第一志望としました。その他、興味のある学科があったロンドン市外の大学2校も滑り止めとしてリストアップしました。

出願の窓口がオープンするまで、1年弱あったのでその間にIELTSのスコアを上げました。一度目のIELTSは5.5でしたが、最終的には6.5まで上げることができ、推薦状は卒業した大学と職場にそれぞれお願いしました。

熱意を持って、アピールすべし!!

いよいよ出願となったのですが、私の場合KCLの募集要項における問題点は大学のGPAでした。GPAとは大学の成績A~Fを一律に評価できるよう数値化したものです。この成績はどうあがいても変えられないので、仕方なく勇気を出して必要書類を揃えて出願しました。

滑り止めの学校からの通達は早く、2校とも1ヶ月以内に合格通知が来ました。でも、第一志望のKCLからは2ヶ月たっても音沙汰なし。不合格でもその連絡がくるはずなので、出願が通っているか心配になりました。そこでコース担当の教授に直接メールで問い合わせました。

するとやはりGPAがネックになっていて、「これまでの職歴や意気込みは素晴らしいが、GPAが基準を達していないので学部で話し合いになっている」とのこと。できるだけ私のことを知ってもらいたいと思い、私が入学し学位を取ることができたら、卒業生としてどのように社会貢献するかについて改めてメッセージを送りました。すでに提出しているpersonal statementの第2弾という感じです。結果的に不合格でも、できるだけアピールして後悔したくなかったからです。2週間後、熱意を汲み取ってもらえたようで、なんと合格通知が届きました!

日本人の謙虚さ、奥ゆかしさは世界に誇る文化の一つですが、海外では積極的に自己アピールしてなんぼです。あの時、教授にコンタクトをとって本当によかったと思いました。

相手も私たちと同じ人間ですから、上手にアピールすれば分かってくれる人もいるんだと自信にもなりました。条件を満たしていなくて迷っている方がおられましたら、それでも出願してみる価値はあると思います。

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住居について

私の場合は渡英から授業開始まであまり時間がなく、渡英前にインターネットで1年間の契約をしました。キングスクロスにあるNIDOという学生寮です。大学へのアクセスもよく、やや家賃は高めですが、訪問するだけでもIDの提示が必要なほどセキュリティーがしっかりしてたので、それだけの価値はあると思います。

ここでは初めての海外一人暮らしでも安心して過ごすことができました。2年目は、Aldgateでそれまでに仲良くなった友達5人で広いリビング付きのフロアをシェアしました。東ロンドンは危険だと言われますが、特に危ない目にあったことはありません。もちろん深夜に一人で出歩かないというのは、どこの国や地域でも同じですよね。

大学生活について

入学手続きの後、初めの1週間はオリエンテーションに当てられ、学生課のサポート内容やロンドンの交通など留学生が知っておくべき最低限の事について説明がありました。テムズ川クルーズやロンドンアイのイベントもあり、留学生活の良いスタートがきれました。

1年目はバイオメディカルの授業だけでなく、サイエンス英語のクラスも週2回組み込まれており、この1年間に英語論文の読解力を深め、プレゼンテーションの経験を積みます。2年間通して、日本人のクラスメイトがいたのはこの英語のクラスのみでした。

私にとって特に大変だったのは、毎週のプレゼンテーションです。人前に立って話すなんて、日本語でも得意ではないのに、英語となるととてもハードルの高いものでした。しかも初回のプレゼンで、「内容は良いんだけど日本語訛りだね」という指摘を受けました。

「そりゃそうでしょ、ネイティヴじゃなくて日本人なんだから」と開き直る反面、内心とてもショックでした。そんなストレートに言わなくてもいいじゃないかと反感すら覚えましたが、これが私のプレゼン猛特訓の契機になりました。

その後は、自分の音声を録音し、発音や間の取り方を直してはまた録音ということを繰り返しました。ある程度形になったら、クラスメイトと一緒に練習しました。練習のたびにお互いの家を行ったり来たり、時にはスカイプでということもありました。

最終的には先生に練習を見てもらえないか相談しました。意外にも快く承諾していただき、先生のお昼休憩の時間を頂戴し、3回にわたってアドバイスを受けることができました。

発音が良くなったかどうかは別として、そういったアプローチが評価されたのか、1年目卒業の際には”The most progressed student in the year”のアワードを受賞しました!! KCLの良いところはどの先生も生徒との距離がとても近く、こちらから行動さえすれば惜しみなく力を貸してくれるところです。

バイオメディカルのクラスは、 中国、韓国、スペイン、トルコからの留学生の計8名でした。講義は先生に許可を取り、全てレコーダーに録音し、聞き取れなかったところは家に帰って何度も聞き直しました。聴きながらメモを取るのは訓練が必要です。これを1年間続けたおかげで、2年目の授業は録音しなくてもメモを取ることが楽にできるようになりました。

連日出される課題には泣きそうになることもありましたが、翌朝の通学時にwaterloo bridgeを歩き、ビッグベンが朝日に照らされるのをみると、「ああ私ロンドンにいるんだな〜、今日も一日頑張ろう!」と思うことができました。

自分で選んだ留学の道も、楽しいばかりではなく辛い時もあると思います。そんな時は自分が何のために留学したか、なぜここを選んだかを思い出させてくれるような、お気に入りスポットを見つけておくとエネルギーが湧いてきます。

コース終了時には、学生は、教授とコース内容についてのフィードバックを提出します。先生も生徒から評価を受けるシステムです。私は提案の一つとして、Graduate DiplomaのIELTSの条件をもう少し上げるべきではないかと書きました。

募集要項では6.0以上で、私は6.5でしたがそれでも専門性のある学部なだけに、授業がとても難しいと思ったからです。それでも、1年後には7.0に上げることができ、リスニングが6.0から8.0に上がったのは、毎日の講義を録音して耳が鍛えられたのだと思います。

2年目のマスターでは、後半は卒論のための研究でした。週1回のペースで教授の部屋を訪れ進捗を報告するのですが、これまでなかったほどに緊張しました。卒論は、他の大学で理系学部の講師をしていた知り合いがいたので英語から構成までチェックしてもらいました。

こういった知人がいなくても、留学生のためにネイティヴの学生がアルバイトとして論文の英語の添削してあげるよ、という広告が廊下に張ってあるのをよく見かけました。どこの大学の学生課でもこのような情報は提供してくれると思いますので安心してください。

年に2回の試験がありますが、自主勉強ができる図書館は試験2~3ヶ月前から24時間開いていて、これはイギリスの大学では当然だそうです。私は夜遅くまで外で勉強するのはあまり好きではなかったので、朝は開館前に並んでお気に入りの席を確保しました。

日本で私の通っていた大学は、試験期間中でも20時までしか開いていなかったので、勉強したい人は個人のライフスタイルに合わせていつでも勉強できる環境が整っているなと感じました。

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留学生への温かい配慮

東北沖地震の知らせがあったのは、授業中の出来事でした。突然、ある先生が教室を訪れて「ここに日本人の学生はいるか?」と訪ねられました。

私が恐る恐る手を挙げると、東北で地震があり被害がかなり出ているということを聞きました。幸い私の実家は広島で特に東北地方に住んでいる親戚や友人もいなかったので、その旨を伝えました。

その後も日本にとって、非常に大きなダメージであっただろうと何人もの先生が声をかけてくれました。学校内だけではなく、スーパーで買い物をしていた時にも中国人?と聞かれ、日本人と答えると地震は大変だったね、と温かい声をかけてくださる店員さんもいました。

離れていると日本のニュースに疎くなるので、すぐに知らせてくれてとてもありがたかったです。そして温かい言葉をたくさんの人からいただいて、心が揺さぶられる思いでした。人種のるつぼであるイギリス、そして留学生が多いKCLであるからこその留学生への対応であったと思います。

日常生活について

トラブル発生?!そんな時も言ったもん勝ち!

日本では家電など故障してもすぐに対応してくれますが、イギリスではそうではありません。学生寮だった頃、冷凍庫の故障が何度もあり、その度に冷凍庫の食品が無駄になってしまって、不便な思いをしました。

メンテナンスの人にその旨を伝えましたが、返事は「もう一回壊れたら、また連絡して」のみ。え〜〜!!と驚きましたが、基本的に一回言ったぐらいじゃ聞いてくれないんですね。

これまで何度もあったことを伝え、非常に困っているからすぐに新しいものに交換してくれるようお願いしました。そうすると1時間もしないうちに新しいものと交換してくれたのです。

きちんと説明して、はっきり自分の意思を伝えさえすれば、すぐに動いてくれます。この出来事があってからは、日常生活でも積極的に質問や声かけするよう心がけました。留学中に、諦めずにもうワンプッシュで問題解決できることがあると気付かされた出来事の一つです。

留学を終えて

日本に帰国後すぐに就職活動をしました。薬剤師として患者さんに英語で説明するというのが本来の目的でしたが、就職活動を進めるにしたがって、薬学の知識と英語を活かせる業務が多くあることがわかりました。

キャリアの長い薬局薬剤師が製薬企業に転職するのは比較的困難なのですが、結果的には外資系の製薬会社で薬剤情報部門のメンバーとして採用されました。英語論文の読解が必要な業務なので、自分が留学で得たスキルが仕事に活かせとても充実した毎日を送っています。

そして、気づいたら自分から行動するという習慣が身についていて、何事にも積極的に取り組めるようになりました。30歳過ぎてからの遅めの留学でしたが、”思い立ったが吉日”です!